信毎記事「五輪と福島 置き去りは許されない」から

9月10日付けの信濃毎日新聞Web版は、IOC総会での福島を軽んじる安倍首相の発言を糾弾する社説を載せています。(T.M.)

五輪と福島 置き去りは許されない  09月10日(火)

 

 「状況はコントロールされている」

 

 安倍晋三首相が福島第1原発事故の汚染水漏れに関し、国際オリンピック委員会(IOC)総会の場で語った言葉である。

 

 原発の敷地からは1日300トンもの汚染水が海に流れ出ているとされる。汚染水対策を含め、事故収束の見通しも立っていない。何を根拠に首相はこう言ったのか、理解に苦しむ。

 

 海洋汚染への懸念から福島県沖の漁業は全面的に中断している。今もなお、14万以上の人々が県内外での避難生活を余儀なくされている。首相の言葉に疑問を持ったり、違和感を感じたりした人は少なくないはずだ。

 

 このほか、「汚染水の影響は港湾内0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」「(健康への影響は)今までも、現在も、将来も問題ないと約束する」とも述べている。

 

 深刻な現状とは程遠い認識である。五輪招致のための政治的な発言との批判は免れまい。

 

 汚染水漏れが深刻化したのは、そもそも政府の対応が後手後手だったからだ。漏れを防ぐための総合的な対策をまとめたのは総会の数日前のことである。

 

 対策は、地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁の設置と汚染水の浄化設備の増強を柱とする。が、効果には疑問の声が上がっており、汚染水の海洋流出を防げるかどうか分からない。手探りで対応をしている現状を「コントロールされている」とはとても言えない。

 

 巧みな言葉でIOC総会を乗り切れても、汚染水対策でしっかり効果を挙げなくては五輪の前提が崩れる。日本の信頼を損ねることになりかねない。首相がIOC総会で対策に胸を張ったことは国際公約でもある。自身の言葉に責任を持ってもらいたい。

 

 原子力の比率を下げ、今後3年程度の間に再生可能エネルギーの普及を加速させる―。

 

 首相は今回、こんなことも言っている。安倍政権は原発の維持に積極姿勢を示してきた。これまでの方針とどう整合性を取るのか、本心がよく見えない。日本の今後のエネルギー政策に関わる重要な問題だ。国会などで詳しく説明してほしい。

 

 安倍首相が語った言葉は、原発事故や被害に遭った福島の人々とどう向き合っていくか、が厳しく問われるものばかりだ。福島の復興が進んでこそ五輪は成り立つ。福島を置き去りにするようなことは許されない。